こんにちは!漁師.jpの馬上です。
6月1日(日)に静岡県焼津市で開催した『船と漁業を知る授業』
前編では午前の部の船の見学会と感動的だった出港セレモニーの様子をお伝えしましたが、今回は午後の授業、そしてイベント全体を振り返りお伝えさせていただきます。
この日は、中学生約60名、保護者約60名、そして全国から集まった水産高校生と先生約70名と、総勢約200名もの皆様にご参加いただきました。焼津の地にこれだけの未来の「金の卵」たちが集まってくれたこと、改めて感謝いたします。
水産高校生のための「進路研究」:リアルな漁業の世界
ウエルシップやいづ多目的ホールでは、この取り組みにご賛同いただいた協賛企業15社が12のブースに分かれて生徒たちを迎えました。ここでの時間は、全国から集まった水産高校生が、今後の進路を具体的に考えるための貴重な「進路研究」の場となります。
ブースには、遠洋まぐろ船、遠洋かつお一本釣り船、海外まき網船、捕鯨船、遠洋トロール船など、今の日本の大型船全業種と言ってもよいぐらい豪華な顔ぶれが全国から集結しました。
未来の漁業を担う生徒たちに向けて、タブレットで迫力ある操業動画を見せながら説明する企業もあれば、ほとんど資料を使わずに、自身の経験を力説する企業もありました。
生徒たちは皆、漁業会社の担当者の話に真剣に耳を傾け、質問を投げかけます。
彼らの真剣な眼差し、「将来の自分」を模索する姿は未来への希望を感じます。そして前日の交流会から1日一緒に過ごしてきたせいもあり普段行っている授業より漁業者との距離の近さを感じさせます。
中学生と保護者のための「漁業を知る授業」
一方、大会議室には中学生とその保護者が集まり、これから第一歩を踏み出すための特別な授業が行われました。
ここでは、まず私の方から「漁師はじめてセミナー」で、漁師という仕事の基礎や全国の漁業の現状をお伝えした後、今回後援をいただいている焼津市の担当者から「焼津市の漁業」についてもご説明いただきました。
続いて、地元の網元㈱いちまる様の「カツオセミナー」
さらに、焼津水産高校の籾山先生より「焼津水産高校について」
ここでは、学校のカリキュラムや設備、学校での様子をお伝えいただきました。参加してる中学生の多くが水産高校への入学を考えていることもあり、午前中の笑顔ではなく真剣な表情に変わり、先生方も気持ちが入ります。
静岡県外から参加している生徒さんもいるので、県外から参加した水産高校の先生にも、ご紹介ブースを設けたところ大盛況でした。
閉会式で明かされた「印象に残ったこと」:予想外の感動
すべてのプログラムが終了し、閉会式では、中学生の代表者、そして各水産高校の代表者から、今日一日の感想が語られました。
みんなのキラキラした笑顔が関係者の一日の疲れを癒します。
最後に私の方から、参加者全員に質問を投げかけました。
それは、「今日一日の授業の中で、以下の3つのうち、どれが一番印象に残り、自分のためになったか?」というもの。
- 船の見学会
- 出港セレモニー
- 漁業を知る授業(座学)
手を挙げてもらう形式で尋ねたところ、中学生は①船の見学会と②出港セレモニーが多く、ほぼ半分に分かれました。彼らにとっては、普段目にすることのない大型船の迫力や、今まさに遠洋航海に旅立つ5年先の自分(息子)と重ね合わせた見送りという非日常的な体験が、強く心に響いたのでしょう。
ここで驚いたのは水産高校生のほとんどが③漁業を知る授業に手を上げたのです!
多くの生徒が「船を見たい」という気持ちで参加してくれたのだから、当然①か②を選ぶだろうと、会場内の皆が思っていたのではないでしょうか。私自身も、どちらかというと準備に大変な労力を費やした午前の内容を選ぶだろうと予想していたため、司会をしながら「えっ!」と思い、どうリアクションしたらよいか戸惑いました。
しかし、後日生徒たちから集まったアンケートに、その理由がありました。
「漁業会社の話を聞くことで、将来の選択肢が広がった」「これまで知らなかった漁業の奥深さに触れることができた」といった、真剣な感想が次々と聞かれたのです。
これをみて私たちの活動の真の目的と目標が、生徒たちの心にしっかりと届いたことを実感しました。この授業の目的は、単に「船を見せる」ことではありません。漁師という仕事の魅力を伝え、漁業の担い手を増やすこと、それが究極のゴールです。船を見ることはその過程であり、目標達成のための手段に過ぎません。結果的に生徒たちが、最も重要だと感じたのが「漁業を知る授業」だったこと。これは、後になってみれば「良かったんだな」という、達成感と嬉しさに変わりました。
開催後のアンケートから
一日を通して、参加者からは多くの感動の声が寄せられました。中学生からは、「初めて見る、体験する大型船にワクワクが止まらなかった」という声や、遠洋航海への出港シーンでは「感動して泣きそうになった」という純粋な感動の声が聞かれました。
保護者の方々からも「普段見られない世界を子どもと一緒に体験できてよかった」「子どもが将来にワクワクしている姿を見て、親として本当に嬉しかった」といった温かい感想をいただきました。
また、参加した水産高校生からは、「進路決定に大きな刺激になった」「将来の選択肢が広がった」など、彼らの未来を大きく左右する重要な気づきが得られたことが伺えました。
そして、ここでまた驚いたのは多くの生徒が共通して挙げていたのは、「他の水産高校との交流ができたことが本当に良かった」という声です。もしかしたら、彼らが通う高校の中では、
「漁師になりたい」
という夢を持つ友達は少数なのかもしれません。しかし、この授業に参加することで、全国の水産高校に自分と同じように漁師を志し、同じ目標を目指す仲間が集まっていることを肌で感じることができたのです。2日間を共に過ごしたこと。そんな経験が、彼らにとってかけがえのない財産となるのかも。そして、もしかしたらこの先、彼らが同じ船に乗って、大海原で操業する日が来るかもしれません。
そんなことを想像すると、私自身ワクワクします。
「手作り」に込めた想いと、奇跡の連鎖
漁業会社の方々も、「楽しかった」という言葉をたくさん聞きました。
実は、船の入港の目途がなかなか立たず、関係者の多くがモヤモヤしていた5月中旬に、多くの関係者から
「最後は全部うまくいく気がする」
という、何の根拠もないけれど力強い言葉をもらっていました。
終わった今、何の根拠もないけれど、この授業は他では決して真似できない、「日本一の授業」だったと私自身思っています。
この時期、事務所では様々な業務が重なり、3人の女子スタッフはそれぞれやることが山積みで戦々恐々としていました。イベント当日も、キラキラした生徒たちの姿と協力してくださる会社の方々に嬉しく思いつつも、現実に追われてバタバタしていて、楽しんでいる余裕はありませんでした。
それでも、出港セレモニーでの焼津水産高校の卒業生である乗組員の堂々とした姿と、色とりどりの紙テープが舞い、大観衆を背に大海原へと向かっていく「第35八興丸」の姿を参加した皆さんと見送る15分間は、私にとっても感慨深いものでした。
もっと気の利いた進行をすれば良かったという後悔と八興漁業さんにはご迷惑をおかけしちゃったかなとの思いもある中、別の船の方から、「うちの船でもこんな風に送り出してほしい」と言ってもらえたのは、この上ない喜びでした。
未来を担う「金の卵」たちが、いつか大きく光り輝き、大海原へと出港していく日にはまたこうして送り出したい!
ここでの出会いのひとつひとつが、多くの希望となり、日本の水産高校がずっと存在し続けられるよう、また来年も全力で頑張ろうと思う。
すべてがうまくいった、まさに奇跡のような一日でした。
- 今年も「第88福久丸」が入港してくれたこと。
- 出港する「第35八興丸」に、焼津水産高校の卒業生が乗船していて、ご家族と授業の参加者でお見送りができたこと。
- 開会式1分前に先生方がなんとか発電機を作動し、マイクが使えるようになったこと。
- 前日までの雨が上がり、最高の青空が広がったこと。
- そして、目標である200人の参加者が集まってくれたこと。
このすべての「奇跡」に、心から「ありがとう」
さて、7月には漁師フェアや八戸市での船と漁業を知る授業もあります。どうやら暑い夏が来てしまいましたが、漁師.jp全員全力で走り続けます。
こんな皆さんがいるから漁業の未来は明るいって思える。また来年!焼津でお会いしましょう!
漁業人材デザイナー馬上敦子