こんにちは!漁師.jpの馬上です。
6月1日(日)に静岡県焼津市で開催した『船と漁業を知る授業』
今年もお天気に恵まれとても素敵な一日になりました。
今年で2回目を迎えたこの取り組みは内容が盛りだくさん。
まずは開催の背景と午前の部の様子をお伝えさせていただきます。
深刻化する担い手不足への挑戦
ここ数年、少子化の影響などにより、水産高校の入学者の減少が大きな課題となっています。
私立高校授業料無償化の流れもあり、この状況は今後ますます深刻化する恐れがあり、多くの水産高校の先生方が危機感を持っています。
全国的に漁業の担い手不足が深刻化する中、特に大型漁船では船舶職員が不足しており、その役割を担うために必要な国家資格である「海技士」。
その学びの場が全国の水産高校です。
水産高校の入学者数が減少すれば、将来の船舶職員となる「金の卵」が減ってしまうのは当然のこと。水産高校に入学したからといって必ずしも漁師を目指すわけではありませんが卒業生の多くが、漁業関連の職に就き活躍しているため、定員割れが続けば高校の存続が危ぶまれ、漁業界への大きな影響が出ることが心配されます。
こうした状況で、先生方だけが生徒の確保を担うことは、その負担が大きくなるばかり。
それならば、
「私たちも入学者の募集から先生方と一緒に取り組んでいこう!」
というのが、この『船と漁業を知る授業』の始まりでもありました。
授業のスケジュールと熱気
午前は船の見学会、そして午後は高校生には漁業会社の話を聞く進路研究の時間、中学生には「漁師はじめてセミナー」や焼津市の漁業について、その後水産高校のカリキュラムや実際の様子をじっくり聞いていただく時間となっています。
昨年、授業を終えたあと関係者が口々に
「来年は200人集めよう!」
と興奮気味に語っていたことは嬉しくもありプレッシャーでもありましたが、募集を終えてみたら、お申し込み数はまさに200人となりました!
この時期は部活動の総体と重なるため参加を断念した生徒もいましたが、これだけの人数を集めるには、関係者総出でのPR活動が不可欠でした。
全国から集結!未来の漁業を担う仲間たち
今回の授業には、全国8校から約70名の水産高校の先生と生徒が参加されました。
- 静岡県立焼津水産高校
- 北海道小樽水産高校
- 青森県立八戸水産高校
- 山形県立加茂水産高校
- 栃木県立馬頭高校
- 富山県立滑川高校
- 島根県立浜田水産高校
- 沖縄県立沖縄水産高校
残念ながら、東京都立大島海洋国際高校は船の欠航により、急遽不参加となりました。
そして、県内外から中学生60名とその保護者60名にもご参加いただきました。
前夜祭「水産高校交流会」で深まる絆(5月31日(土) 18:00~20:00)
前日5月31日(土)の夜には、県外から参加する水産高校の先生方と生徒、そして焼津水産高校の皆さんと共に、焼津港近くのまぐろ茶屋さんを貸し切り、前夜祭を行いました。参加者は総勢65名。
先生方や漁業会社の皆さんから一言ずつご挨拶をいただいたほか、地元企業のいちまる様、丸又様からは、地元焼津が誇るかつおや黒はんぺんをご紹介いただきました。
焼津の味をしっかり味わっていただき、大人になっても覚えていて欲しい!そんな想いがいっぱいの前夜祭です。
歓談の時間になると、生徒たちはすぐに円座になり、楽しそうに盛り上がっていました。先生方の話では、他の水産高校とのこのような交流の場はなかなか無いそうで、早速Instagramで繋がったり、お土産交換をしたりと、仲良くなっている姿を大人たちは微笑ましく見守っていました。
店内には立派なまぐろの兜が展示されており、記念撮影をする生徒たちの姿も!
みんなで食べたまぐろ茶屋さんの「ミナミマグロの中トロ丼」は、選び抜かれたミナミマグロを使用した贅沢品でお店の看板メニューとのこと。
偶然にもこの日お店で提供していただいたマグロは開洋丸(青森県八戸市)のもので、タグを見た開洋漁業の方は喜んでいました。
交流会の最後には、本授業2代目団長の選出を行いました。
円座の中心人物であった小樽水産高校の3年生、常本くんが立候補!全員の盛大な拍手で選出されました。
最後は記念撮影と翌日から始まる授業の掛け声で、名残惜しくもお開きとなりました。
いよいよ本番!『船と漁業を知る授業』午前の部(6月1日(日) 9:00~)
全国の水産高校から集まってくれた生徒たち!
今年も焼津水産高校の沼里校長先生の朝礼から授業はスタートしました。校長先生は、この授業への熱い想いと、参加者への大きな期待を伝えてくださいました。
団長の合図で、いよいよ船の見学会が始まります。
水産高校生:遠洋まぐろはえ縄船「第88福久丸」見学
水産高校生には、6日前に10ヶ月の操業を終えたばかりの遠洋まぐろはえ縄船「第88福久丸」を見学していただきました。若い乗組員も多く、2回目ということもあり、見学の段取りは皆さんで意見を出し合い、完成度の高い見学システムを準備してくださいました。別のまぐろ船の船主さんが「自分の船でもこうしたらいいんだと勉強になった」と感心するほどでした。
船の見学をしているときの嬉しそうな生徒たちの顔をみられることが何よりも私たちにとってのご褒美です。
焼津まぐろ漁業の皆様、今年も本当にお世話になりました。
中学生:実習船「やいづ」見学
今年は漁船の見学船をもう1隻用意できず、焼津水産高校の実習船「やいづ」の見学となりました。こちらも4日前に長期航海から帰ってきたばかりですが、先生方のご協力に心より感謝申し上げます。
100人を超える中学生とその保護者の見学は大変だったと思いますが、中学生の感想には、
「色々な設備を丁寧に説明してくれて面白かった」といった声が多く寄せられました。入学を考えている生徒さんにとっては、とても貴重な機会だったと思います。
感動の出港セレモニー!
海外まき網船「第35八興丸」の旅立ち(11:00~)
同日出港する海外まき網船「第35八興丸」
船主さんからは「船内の見学もさせてあげたいのだけど」というお言葉もいただきましたが、準備の関係で見学は難しく、それならば「全力で出港を見送ろう!」と企画しました。
この船には、焼津水産高校の専攻科を卒業した年の近い乗組員が3人乗船しています。その中の一人は、この春卒業し初めての出港となる方で、昨年の『船と漁業を知る授業』にも参加していました。
遠洋船の中でも比較的航海の短い海外まき網船は、普段そこまで大々的なお見送りはしないとのことでしたが、約300人が駆け付けるということで、船の前には特設ステージが用意されました。
3人の乗組員へのインタビューと、初出港する吉野さんのお母様、そして漁労長にもステージに上がっていただきました。
吉野さんのお母様からは、まずは安全な航海を。そして息子さんに
「元気に頑張ってきてね!」
とエールが送られました。
参加されていた保護者の方々はお母様の言葉にグッとくるものがあったと思います。
そして、焼津水産高校専攻科の生徒から先輩へのメッセージとささやかな差し入れをお渡ししました。お渡しした紙袋には参加者の皆様からのメッセージが書かれています。
3人から優しい漁労長と伺っていた津田漁労長は、話も上手でしっかりと第35八興丸をアピールし場を盛り上げてくださり、大きな手で高校生と握手を交わしました。
ただ見ているだけでなく、参加して触れ合うことで、漁師という仕事がより身近な存在になってほしいという想いで準備しましたが、中学生や高校生、ご家族からお菓子を渡す場面では、自然と一声かけながら遠洋航海に送りだすという実感がわく感動的なシーンとなり、送る側、送られる側どちらも本当に嬉しそうだったのが印象的でした。
船の儀式を待った後は、焼津市にお借りした手旗でお見送りです。
200本の紙テープがクレーンで釣りあげられ、いよいよ出港!
威勢の良い「第35八興丸」のテーマソングが流れ、素晴らしい旅立ちとなりました。
団長と参加者全員の「いってらっしゃい!!」の声で見送り、約6日間かけてミクロネシア連邦、パプアニューギニア方面へ向かうとのことです。
海外まき網船第35八興丸の安全操業と大漁を心からお祈りし、午前のプログラムを終えました。
お昼休み:大好評の特製寿司とまぐろ飯
お昼休みには、福一漁業様にご準備いただいたこの授業のための特製寿司とまぐろ飯を500円で提供しました。ミナミマグロ入りのこのお寿司がとても好評で、昨年の参加者からも「今年もまたお願いしたい!」と多数のリクエストがありました。
福一漁業様のこの授業への想いから、今年は昨年のものよりパワーアップし、中高生だけでなく味に厳しい漁業会社の皆様からも大好評でした。
福一漁業様、この物価上昇の時代に、思い出の味をありがとうございました!!
※授業に参加する会社様のほか、全国の関係者からの協賛金をいただきました。皆様からいただいた協賛金は、この授業だけでなく、今年1年間の「漁師の仕事!知る授業」の中で有効に活用させていただきます。
漁師.jpの「参加型」へのこだわり
この授業には、たくさんの関係者の想いが詰まっています。企画運営のすべてを私たち漁師.jpと水産高校、そして漁業会社が協力して行っています。これだけのイベントをするのにイベント会社を使わないところが、私たちの強い想いのひとつでもあります。
将来的に漁業に携わってほしいと願うならば、漁業会社の協力は不可欠です。車の誘導から受付、釣り人への声がけなど、すべて皆で協力して行いましたが、参加者や漁業関係者からは、不満どころか
「この手作り感が良い」「来年はもっと手伝います」といった声もいただきました。
大変ではありますが、まるで参加者全員が楽しめる夏祭りのような感覚です。
午後からの様子はまた後日ご報告しますので、どうぞお楽しみに!
漁業人材デザイナー 馬上敦子