減らさない努力してますか?

こんにちは!漁師.jp馬上です。

先週は12月12日、富山県立滑川高校で初めて漁師の仕事!知る授業を開催しました。
1年生と2年生約60名の生徒たちに参加いただきました。

参加した漁業会社の方や定置網の漁師さんがブース形式で生徒とお話をする楽しい時間となりました。後日先生から「生徒の中に漁業に興味を持ってくれた子がいた」とご連絡がありました!
先生方の協力でこうした機会をいただけることはありがたいですね。

12月13日は全国鰹鮪近代化促進協議会で講演をさせていただきました。この協議会は遠洋かつお・まぐろ漁業界の若手経営者で組織されていて毎年総会の前には講演を聞いて意見交換をしているとのこと。

日本の遠洋まぐろ業界の方々が集結する会議で講演をさせていただけるとは光栄ではありますが、有意義な時間になるのかと正直不安の方が大きいです。
前にも書いたかもしれませんが講演は得意でも好きでもない私です。ただ、いただいたことはできるだけ断らないようにとの思いでお引き受けしました。

13時から1時間程の講演では、私がこれまで活動してきた内容やその中で今何をしなければいけないかといった課題をお話しました。

漁業就業支援フェアは2002年から始まりましたが、最初の出展団体を見ると沿岸漁業、大型船としては全日本海員組合北海道支部のみとなっていました。
初めて遠洋船の会社が未経験の方を入れていこうと参加したのは2009年でした。
その時に参加された会社の一人が茨城県の㈱磯前漁業所の磯前社長で、今回この促進会の会長でもある磯前社長からこうしたお時間をいただいたことは15年の間に築いてきた信頼関係と繋がりで私にとってとても嬉しいことです。

私たちは漁師を増やす、育てる活動をしているけれど、もっと大事なことは減らさない活動です。事故を減らすこともその一つと思い取り組んでいます。

講演では以前、漁船に乗り、19歳でパワハラにより辞めていった方の残した報告書を読ませていただきました。

「これを放置していたら私たちの活動の意味はない。見て見ぬふりはしないでください。」

こうした話をさせていただきました。

講演の後は、磯前会長と今日本で一番たくさんの新人漁師が乗船している遠洋まぐろ船第87長久丸(三重県尾鷲市)の大門社長にも入っていただき、グループディスカッションを行いました。

就業支援フェアを通じて乗船した6人に事前にwebアンケートをさせていただきました。
遠洋船の乗組員にこうしたアンケートができるって進化ですね。

1.なぜ数ある出展団体の中から長久丸を選んだのか

2.乗船して辛かった事、良かった事

3.もし新人日本人一人で乗船していたら頑張れていたか

など10項目に回答いただきました。

ちょうど彼らがラスパルマスに入港した際に撮影してくれたメッセージ動画もYouTube等で見ていただけるのでよかったらご覧ください。

沖での操業中にも関わらずみんなしっかりと書いてくれて、色々なことが読み取れました。

【なぜ長久丸を選んだか】については、多くの方が「フェアでの社長の説明が丁寧で内容に共感し、この船に乗りたい、社長の下で働きたいと思った」と書いていました。

【乗船して辛かった事】は船酔いや長期間帰れないこと、家族や友人と会えないことなど。

【一人でも頑張れていたか】に対しては6人中4人が頑張れていないと書いていました。外国人やベテラン船員との意思の疎通や仕事の説明がわからないといった声がありました。

フェアに参加し、真剣に就職先を探しに来た若者がどんな気持ちで面談して、話のどこに惹かれてどういう物差しで会社を選ぶのかを息子世代の方の気持ちを読み解いて皆様にお伝えしました。

日本の宝である若者を雇用するということは私は選んだ側にも大きな責任があると思っていましたがそれを大門社長は、
「自分でフェアに参加し、時間をかけて話をして選んでいるから選んだ子に対して愛情がある」
とおっしゃっていました。

こうした会社と乗組員の絆こそ定着への道のりなのではないかと思います。

最初に乗った子からは毎日のようにLINEがきてそれを日本からサポートし、入港するタイミングには海外の港に行って美味しいご飯をご馳走して、ベテラン船員との間に入り彼らが少しでも働きやすいように動いていた社長がいたからこそ、アンケートの中で全員が

「今の目標は乗船履歴が付いたら3級海技士の資格を取ること」と書いています。

今は転職が当たり前の世の中。もしかしたらこの先下船してしまうこともあるかもしれないけれど、少なくとも彼らは漁師が嫌になって辞めることはないでしょう。

グループディスカッションの中である会社の社長さんが

「とても勉強になった。我々がまず一番初めにやるべきことをワンフレーズで教えてください。」と質問されました。

大門社長は

「たくさんの人に会うこと。会って話をすると見えてくるものがある。」と。

私はなかなかワンフレーズでお伝えすることが難しかったけれど

「目を背けないこと。目の前の従業員を大事にしてください。」とお伝えしました。

10ヶ月もの長期航海をする遠洋まぐろ船に若い人を集めることは本当に難しいけれど、皆様の努力により一度挑戦してみたいという若者もいます。

その彼ら6人を社長とベテラン船員が愛情をもって育てている第87長久丸の話は参加した皆さんにとって衝撃だったのではないでしょうか?

複数の新人をいれることは経営面で大変だという現実的な声もありましたが、この漁業を守るために何か少しでもヒントになり

「若者がずっと輝き続けられる船」

が増えることを心から期待しています。

【1年目23歳の乗組員から社長へのメッセージ】
10ヶ月の漁を終え成長した姿をお見せできるよう頑張ります。また周りのメンバーと仲良くトラブルを起こさぬようにします。
あと、ラスパルマスでは3日間の食事ご馳走様でした。社長に連れて行ってもらったご飯屋はとても美味しかったです。


講演の最後に以前、行ったアンケートをご紹介させていただきました。

4年前開催された業界団体の方の集まる会議で
「就業者数が減っていて、漁師.jpは存在意義がないのではないか」
と理事から意見が出ました。
私は頑張っているつもりだけど、存在意義があるかと聞かれてもそれを決めるのは私ではなく漁業者であることから、翌年の会議の前に繋がりのある漁業会社の方々に5段階評価と活動についての率直な意見をいただきました。

21件の回答があり、評定平均4.5

このアンケートには遠洋まぐろの会社の方やそのほか多くの方から「これからも存続させて、弊社の人材確保にも協力してください。一緒に頑張りましょう。」という声をいただきました。

「3人しかいない小さな団体だけど、こうした声が私たちの自慢であり誇りです。講演の中でやんわり伝えても伝わらないので、言わない方が良いことを言って嫌われたかもしれない。でも今すぐに変えていかなければいけないことがあると思うし、15年間こうして一緒に頑張ってきたのだから、これからもあまり嫌わずに前に進んでいけたらなと思っています」

とお話しました。

講演といったらもっとイマドキっぽいかっこいい話をする方がいいのかもしれないけれど、キラキラした話は一切なしです。

そんな私の講演をうちのスタッフも会場内で撮影をしながら見守っていてくれていました。

終わって一安心した2次会では大騒ぎで喋りすぎで喉が潰れました。

年末のお忙しい時期に貴重な機会をいただきありがとうございます。
存在意義のある漁師.jpを目指して今年もあと10日、頑張ります!

漁業人材デザイナー馬上敦子