私たちのCASE紹介
まき網漁 (有)石田丸漁業の場合
「漁業は年々悪くなっている。こんな仕事に、未来なんかないよ。」
未来がないんじゃなくて、
未来のことをきちんと
考えてないだけじゃないかい?
まず、経営の視点を持つこと。それだけで、漁業は大変身します。
「漁業の未来は暗いってよく言いますが、そういう人に限って『今日の水揚げ』ばかり気にしているような気がします。長期的に見て先手を打てば、決して暗くなんかないですよ」
石田社長は、きっぱりとそう言います。これだけはっきりと「漁業の未来は明るい」と宣言する方に出会ったのは、私たちも初めてのことです。「船主のみなさんならだれもがわかってると思いますが、漁業ってのは典型的などんぶり勘定でやってきました。波崎でもつい最近まで、漁師の給料は完全歩合制だったし、経営者も儲かればどんどん新しい船をつくっていた。金があればあるだけ使ってしまったわけです。これじゃ、水揚げや魚価が低迷すれば、苦しくなって当然ですよね」
魚価がそこそこの水準にあり、水揚げも年々伸びていた時代には、確かにそういうやり方も通用しました。そんな豪快さも、逆に言えば漁業という仕事の良さだったかもしれません。けれど、魚価も水揚高も大きな伸びが期待できない今の時代には、違うやり方が必要になってきます。「うちでは、2ヵ月くらい不漁が続いても困らないよう、資金を準備しています。経理もきっちり処理して、お金の流れをきちっと管理してる。こんなの当たり前のことなんだけど、それができてない船が多いんじゃないですかねぇ」
まず、経営の足場を固めること。そうすると、数ヵ月後、1年後、3年後が見えてくる。今ばかり見ているから先が見えないのだ、と、石田社長は言います。
なるほど、その通りに違いありません。
今は少しも困ってないけど、未来の後継者採用のために、
2億円かけて社員寮を建てました。
「でもそれは、『ケチをしろ』ってことじやないんですよ」そう。石田丸漁業は、波崎でトップクラスの給料を払っている『社員思い』の会社でもあるのです。「4〜5 年前までの完全歩合給時代には、うちも辞めていく漁師が多かった。ある船主が最低保証月額25万円という制度を導入して、それが波崎の基準になったんです。でもうちは、水揚げ奨励金としてさらに10万円を出しています。なぜかって? 船員たちがやりがいを持てるように、です。夜中に働くキツイ仕事をして25万円じゃ、やってられませんよ。だから高めの固定給を出して、さらに一定以上の水揚げがあれば、年末にボーナスで支給することにした。そうすると、『頑張れば稼げる』と実感するから、漁にも貪欲になります。『これくらいでいいか』と思うのと、『もうひと網やるか』と思うのでは、まるで漁が違います。結果的に、会社にも、漁師たちにも、プラスになりました」
「どんぶり勘定の経営じゃ、未来は見えてきませんよ」
新人漁師の年収が500万円になろうかという高給のおかげで、ここ数年、乗組員不足に困ったことはない石田丸。
なのに、平成10年6月には2億円ちかくかけて独身寮と家族寮を建設。さらに11年度からは雇用対策室をつくり、後継者の計画的な採用と育成を始めると言います。普通なら、「そこまでしなくたって」と思うところですが、石田社長にとっては、これも「当然のこと」だと言います。
「今は採用に困ってないけど、それに甘えていたら必ず痛い目にあいます。昔は黙ってたって水産高校から毎年新卒がやってきたけど、最近は他の船から移ってくる者が多い。漁師のなり手は確実に減ってますからね。若いのがいなくても船は出せますが、下から突き上げる者がいないと船の中がマンネリ化して、仕事の効率も落ちるんですよ。私は労務倒産した会社も山ほど見てきましたからね。会社の体力にゆとりがあるうちに手を打っておくのは、当たり前。人材は、船と同じ会社の財産ですから」
人への投資を惜しんでいては、漁業全体が若者からそっぼを向かれる。そんな危機感が、石田社長にはあるようです。
漁獲量の規制は、新しい漁業をつくるチャンスですよ。
ここまで読んだ方の中には、「やっぱりこの会社は特殊だ。ウチは毎日の漁で精一杯で、こんな大きな投資などできない」と感じた方も多いと思います。けれど、石田丸漁業にとっても不漁や魚価の低迷という条件は同じです。もし違いがあるとすれば、それは悪条件もプラスに考える前向きな発想かもしれません。
たとえば近年強化されている『漁獲高の総量規制(TAC制度)』。ともすると、儲けの機会を奪われるマイナスの動きと考えがちですが、石田社長は逆なのです。
「チャンスですよ、これは。特にまき綱漁船は、労働条件を一気に改善できるかもしれない。だって、なぜ漁師が若者に敬遠されるかと言えば、労働時間や休日が陸と大きく違うからなんです。夜に操業するまき網漁は昼夜が逆転しますから、友だちと遊べません。でも、資源管理型の漁になれば、大量にとる必要はないのですから、操業時間を短くするとか昼間にするとか、工夫の余地が出てさます」
漁獲量が安定すれば、魚価も安定する。そうすれば経営も漁師の生活も安定する。これまでの、一種ギャンブルのような漁業が変わるかもしれないと、石田社長は言います。
「だから漁業の未来は明るいんです。海の変化をしっかりと見て、海に全力でぶつかっていけば、漁業は必ず答えが出る。何もしないで悲観ばかりしていたら、良くなるものも悪くなりますよ」
漁業は良くなると信じる力が、道を開くのかもしれません。
次世代のために、どう金を使うか、
しっかり考えなきゃ
(有)石田丸漁業
所在地: | 茨城県鹿島郡波崎町9057番地の2 |
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電話番号: | 0479-44-0423 |
事業内容: | まき網漁業(4ヵ統所有) |
従業員数: | 155名(うち乗組員135名) |
創業: | 昭和30年1月 |
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設立: | 昭和56年 |
年商: | 41億円(1998年実績) |